廃業とは
個人(=個人企業)でも会社(=法人企業)でも、事業を行っていたけれど、もうやめたいと考えることはあると思います。この場合に2つの方向があります。
倒産
負債が大きい、資金が乏しい、売り上げの不振など経営が行き詰った状況下では、個人事業の場合には「自己破産」、会社の場合には「倒産」の手続きにより、借金などを法的に清算します。
経営者自身が倒産を選ぶというよりも、選ばざるを得ない状況に追い込まれてた結果、倒産となります。
倒産の手続きは、取引先や従業員に迷惑をかけることになり、倒産の手続きは誰も好んで行わないものです。
廃業
廃業は経営が破綻していない状況下で、経営者の判断で自主的に事業を辞めることを指します。廃業は倒産と違い計画を立てて進めていくことができます。
そのため、取引先や従業員などに対しても負担が少なくなります。
個人企業の場合には、事業を停止し、税務署に廃業届を出すだけで、廃業することも可能です。
一方、会社の場合には、廃業するためにも、いろいろと面倒な手続きがあります。
ここでは、会社の廃業について解説いたします。
廃業してしまう理由
理由①後継者不在のため
事業の継続性はあるものの後継者問題などから事業を廃業する場合があります。地方の中小企業などにはこうした廃業が多く見受けられます。
これは、昨今の人材が不足している事が原因となっているようです。
理由②後継者候補の意識の問題
後継者として事業承継を行いたいものの、後継者の候補者が経営者として向いてない場合や、経営に対する意識や意欲がないためにやむなく廃業に陥る場合があります。
暮らしにゆとりを求める後継者世代が、会社を成長させようとするモチベーションを持つことが課題となっています。
理由③事業承継の資金がないため
知的財産や技術力、地域とのコネクションはあるにもかかわらず、事業承継をおこなうための資金不足により事業を廃業するケースがあります。
こういった場合は知的財産や技術などを担保に銀行から融資を受ける事も可能です。
しかし後継者の経営能力や意欲が欠ける場合にはリスクを負わずに事業を清算して廃業するという選択肢を選ぶ傾向があります。
理由④経営者の時間的・体力的限界
経営者が高齢な場合は、年齢的な観点から見て事業を承継する時間や体力が乏しいといった場合があります。
事業承継には教育などを含めると10年弱かかると言われていますので、長い期間をかけられない状況になった経営者が廃業を選択するようです。
廃業のメリットとは?
メリット①経営の責任から解放される
短時間で事業を停止する事ができることや事業を清算する事で、後継者問題に悩む必要がなくなります。
また従業員の生活などを守るという責任などから解放されます。
メリット②資産状況を悪化させず守れる
今後の経営の見通しが危ういときには、無理に経営を続けて事業が悪化するなどのリスクを避けられるところにあります。
設備投資などが回収できずに結果的に赤字になる倍もありますが倒産よりも残せることとなります。
廃業のデメリットとは?
デメリット①従業員を解雇しなければならない
経営者としては一番の悩みどころが廃業による従業員の解雇です。経営者にはとって従業員を解雇するということは重大な決断です。
取引先などに従業員を引き取ってもらえばいいですが、中には再就職先がなかなか決まらない従業員も存在します。
従業員の働き場所が失われることが廃業のデメリットとして考えられます。
デメリット②関係各社との関係が終わってしまう
廃業によるデメリットの一つとして考えられるのは、これまでお付き合いをしてきた多くの取引先、顧客などとの関係も終了を迎えてしまうという事です。
それは廃業により関係各社が少なからずデメリットを被る事や、これまでに築き上げてきた人脈やノウハウ、技術なども引き継がれないままになることもデメリットになるでしょう。
デメリット③廃業コストがかかる
廃業を決めた時に、自社の所有物などの資産を売却する事になります。
清算・廃業時は事業停止を前提としているため、資産の売却が思うように進まず、簿価を償却できないために借入金等の債務の返済に困るというリスクが考えられます。
また、店舗や事務所など借りている場合は、原状回復費などもかかります。
廃業という性質上致し方ないのかもしれません。
デメリット④借入金の返済
中小企業の多くは、金融機関からの融資に頼っています。この場合、経営者が個人で保証をしていることが多く、廃業しても借入金の返済に追われる場合があります。
廃業・清算の流れと手続き
廃業すると決めたら、それに伴い法人の場合は法務局へ『解散の登記』と同時に『清算人等の選任(就任)の登記』もあわせて行います。
個人事業主の場合は税務署などに『廃業届』、法人の場合は異動届にて『清算結了』を届け出ます。
会社を空っぽにする作業を『清算』と呼び、清算が終わった状態を『清算結了』と言います。
消費税の課税事業者の場合は『事業廃止届』を提出します。
会社の廃業は法律に則って行う必要がある
会社の廃業は、営業を停止しただけでは不十分です。
会社法の定めに従って、1つ1つ順を追って手続きをこなさなければなりません。
手続きには、株主総会の決議や官報への公告、法務局での登記、税務申告、社会保険の廃止など、やらなければならないことがたくさんあります。
特に、官報公告をするときには、最低でも2か月以上の期間をとることが会社法上要求されています。従って、廃業をしようと準備してから、会社を閉鎖するまで、最短でも2か月はかかってしまうことになります。
会社の閉鎖までの流れはどうなっている?
会社を自主的に廃業するには、会社を解散した後、清算手続きを行う必要があります。
本当に自主廃業できるかどうかは、会社の財産を処分し換金して債務を返済した後の、残余財産が生じるかどうかを見極めなければなりません。
財産よりも負債の方が大きい場合には、破産手続きについて検討しなければなりません。
会社を廃業し、会社を閉鎖するまでの大まかな流れは、次のとおりです。
解散の準備
会社を廃業するときには、まず会社を解散し、営業を停止しなければなりません。解散日を決め、従業員、取引先、顧客などの関係者に「廃業のお知らせ」などの書面で営業終了を通知しましょう。
株主総会での解散決議
会社は、会社法で定められた解散事由がなければ解散できません。自主的に廃業する場合には、株主総会の決議(会社法471条3号)による解散を選ぶ必要があります。解散には特別決議が必要であるため、発行済株式総数の過半数の株主が株主総会に出席し、議決権の3分の2以上の賛成で解散の決議を行います。
清算人の選任
会社の廃業のためには、会社の財産を処分し債務を返済していくなど残務処理をすすめる必要があります。この残務処理のことを清算事務といいます。解散決議後には、会社の通常業務を行うことは認められません。精算事務を進める責任者として、解散時の株主総会において清算人を選任します。清算人には、現社長が就任するケースが多くなっています。
選任された清算人は、解散時の貸借対照表と財産目録を作成して、株主総会の承認を受けなければなりません。
解散・清算人選任登記(※解散日から2週間以内)
会社を解散したとき、清算人を選任したときは、法務局で登記手続きをする必要があります。解散登記と清算人選任登記は、通常同時に行います。
なお従来の会社の実印は廃止され、今後清算人が使用する実印を新たに届け出ることになります。
解散の届出(税務)
解散及び清算人の登記が完了したら、税務関係の届出も必要です。国税である法人税については税務署、地方税である法人住民税や法人事業税については都道府県税事務所や市区町村役場が管轄になりますから、これらの所轄官庁に解散届を出します。なお、解散届には、会社を解散した旨の記載がある登記事項証明書を添付します。
解散の届出(社会保険)
会社を廃業し、従業員を解雇する場合には、社会保険や雇用保険の手続きも必要になります。なお会社解散後も従業員が残っている間は、労働保険や社会保険に加入しておく必要があります。
従業員が1人もいなくなった時には、社会保険については「適用事業所全喪届」を年金事務所に提出します。労働保険の場合には、「労働保険確定保険料申請書」を労働基準監督署に届け出て、労働保険料の精算を行います。そのとき、労働保険料の還付が発生する場合は、還付請求書も一緒に提出します。そのうえで、「適用事業所廃止届」をハローワークに提出します。
解散の届出(許認可など)
許認可を受けている場合にも、許認可庁に解散の届出が必要な場合があります。たとえば、建設業の許可を受けている会社が解散するときには、許可を受けている官庁(国または都道府県)に建設業の廃業届を提出しなければなりません。
解散及び債権届出の公告
会社を清算するためには、会社の借金の全てを返さなければなりません。会社の債権者(会社がお金を借りている相手のこと)にもれなく申し出てもらうために、会社が解散したこと及び2か月以上の期間を指定して、債権者に債権を申し出るよう、官報に公告を掲載することが求められています。
法人税の確定申告
会社が解散すると、事業年度開始日から解散日までの期間が一つの事業年度とみなされ、財務諸表の作成など決算手続きをすすめなければなりません。そして、解散日から2か月以内に通常の確定申告と同様の方法で、法人税の確定申告を行います。これが会社の通常業務による、最後の決算手続き及び確定申告となります。
なお、解散日以降も、会社の廃業が完了するまでの間は、解散日から1年ごとの期間が清算事務年度となり、清算人は決算書、清算事務報告書等を作成し、株主総会の承認を受け、その事業年度末日から2カ月以内に法人税の確定申告が必要となります。
清算事務の実行
清算人は、会社の全ての財産を売却して換金し、会社の全ての債務を返済していきます。
なお、債権申出の公告の期間が終了するまでは、原則として債務の弁済をすることができません。一部の債権者のみに優先的に弁済をすれば、他の債権者が弁済を受けられなくなる可能性があるからです。
残余財産の確定・分配
会社の財産を全て換金し、全ての債務を返済の目途がたつと、残余財産が確定します。この目途が付いた日が、残余財産が確定した日となります。
会社の残余財産は株主に帰属するため、株主に対して分配します。
清算事務決算報告書の承認と清算決了の登記
残余財産が確定したら、清算人は清算事務決算報告書を作成し、株主総会の承認を受けます。
そして決算報告書承認後2週間以内に法務局で清算結了登記を行います。清算結了登記が完了すると、登記簿が閉鎖されます。
法人税の清算確定申告
残余財産確定日から1か月以内(その期間内に残余財産の最後の分配が行われる場合には、その分配日の前日まで)に、清算事務年度開始の日から残余財産確定の日までの期間の確定事業年度の確定申告を行います。
清算結了届
税務署及び自治体に清算結了の届出を行います。
清算決了の登記が終われば、法人税については税務署、法人住民税や法人事業税については都道府県税事務所や市区町村役場に清算決了の届を出します。
休眠(休業)と廃業との違いは?
廃業と似て非なるものに、「休眠」があります。
「休眠」は、法人として「登記簿上」は存在してはいるものの、事実上、営業活動を停止している状態、会社を眠らせた状態をいいます。
会社自体は消滅させずに、事業活動だけを停止します。
一方、廃業の場合は、株主が会社を解散させる決議をし、通常の営業活動を止め、清算事務のみを行っていきます。
その清算事務完了により、会社自体が消滅します。法務局の登記簿上も閉鎖されます。
つまり、「休眠」と「廃業」の違いは、会社自体が存続するのか、消滅するのかの違いです。
会社を休眠させるには
会社が存続している状態であれば、法人税、法人事業税等の申告義務が生じます。
ただし会社が休眠であるならば、課税対象である所得は発生しませんので、各役所へ「休眠」届を提出するとよいでしょう。
休眠届けを出しておくと、住民税の「均等割」が減免または免除される場合があります。
その休眠届には専用の様式がないので、「異動届出書」の様式を使って、休眠する旨を記載して届出することになります。
従業員がいた場合は、それに加えて「給与支払事務所等の廃止届出書」を提出します。
さらに、社会保険に加入している場合は「健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届」を提出しなければなりません。
SBLがお手伝いできること
廃業や清算は、手続が大量になり、とても面倒な作業となります。
また、廃業や生産のやり方次第で、残せるお金の額や廃業処理にかかる費用、税金などが大きく変わってきます。
事業継続の可否の判断や関係者への情報開示のやり方、上手な清算業務の方法、個人資産やその後の相続などまでご相談いただけます。
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